『 大前研一最新提言 ~ もはや国債の発行余力を失った日本政府 』
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■3■『 大前研一最新提言
~ もはや国債の発行余力を失った日本政府 』
※日経BPnet【時評コラム】に2010年3月10日発行に
大前研一が寄稿した記事を編集したものです。
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■≪もはや国債の発行余力を失った日本政府≫2010年3月10日
金融経済危機に対応するため、2009年は国だけでも新たに25兆円ほどの負債が
増加したとされ、政府の借金は増加する一方だ。もちろん地方政府、つまり
自治体の財政も厳しく、膨大な負債を抱え込んでいる。
◆政府部門の「正味資産」がマイナスに転落したらしい?
政府も地方自治体も国債や地方債に頼っているということは、将来の日本国民
から借金をしていることにほかならない。日本はその借金をずっと続けてきた。
しかし、それもいよいよ限界に来たようだ。政府部門の「正味資産」が2009年末
に“ついにマイナスに転落したらしい”。政府は財政健全化の道筋を早期に示す
必要がある。
この「正味資産」とは、国と地方をあわせた政府部門の資産から負債を差し引い
たものだ。具体的には、土地や株式などの資産から、国債や借入金などの負債を
引いたものである。これが2009年末に初めて“マイナスになったらしい”という
のだ。民間企業であれば、債務超過の状態である。
これにより政府関係者は、「国債や地方債の増発余地が乏しくなった」と言うが、
私から見れば「何を今さら」という感じだ。
◆「道路・土地等」の資産は実際にはお金の価値がゼロに等しい
2008年における政府部門のバランスシートによると、
資産部分は、「非金融資産」として「道路・土地等」が491.2兆円、「金融資産」
として「現金・有価証券等」が504.2兆円と書かれている。しかし、よく考えて
みてほしい。国が持っている道路や土地は現金化できるものではない。
資産の大部分は現金化できるはずがないことは誰が考えてもわかるだろう。
「道路・土地等」は実際にはお金の価値がゼロに等しい資産なのである。
要するに、国が持っているのは、流動性がきわめて低い資産だけである。
バランスシート上に書かれている金額ほどの価値はない。
「マイナスになるらしい」どころではない。
現実はマイナスもマイナス、大マイナスなのだ。
◆「実は正味資産はマイナス」と言われたら?
自民党政府は、「正味資産はプラス」としていたから、気前よく国債を発行していた。
しかし、「実は正味資産がマイナスでした」と国が認めた、となれば、国債を
引き受ける側が困る。国債を買っていた国民からすれば、「資産があるという
から買っていたのに」「本当は資産なんてありませんと今さら言われても」と
恨むのが普通だろう。
欧州連合(EU)ではドバイ危機からの連想でギリシャの経済危機が危惧されている。
その連想でPIIGSという言葉もささやかれている。ポルトガル、イタリア、
アイルランド、スペインにギリシャを加えた財政破綻予備軍の総称である。
しかし、国家財政の実態は日本のほうがこれらの国々よりはるかに悪い。
◆日本の公的債務に関する錯覚
学者の中には、ギリシャ国債は外国が買っており、対外債務であるから危機に
なるのであって、日本国債は国民および日本の金融機関が買っているので投売り
は起こらない、すなわち暴落の危険性は少ない、と解説する者もいる。まさに
「曲学阿世の徒」と呼ぶにふさわしい解釈である。
海外の投資家が日本の公的債務をまだ比較的安全と見ているのは錯覚に基づいている。
つまり、危なければ誰も買わないか、高利回りにしなくてはいけないだろう
(現にギリシャが先週行ったユーロ建て10年もの国債発行では6.25%もの利回り
としなくてはならなかった)。それが、日本の場合にはまだ1%台で発行し、
買い手がいるのだから安心なのだ、という錯覚である。
しかし、買い手は金融庁に睨まれた銀行とか生保、亀井大臣の大本営が経営する
郵貯や簡保、そして日銀や中小企業金融機関などである。もちろん国民は
そんなことは知らない。いざとなれば自分たちが預けたものは返ってくる、
と信じているが、どの金融機関も日本国債がコケた時には返済資金は当然ない。
もう一つの錯覚は、外国人が持っているわけではないから(ギリシャやアメリカ
などとは違う)、というものである。約6%(44兆円)は外国人が所有している。
彼らが一斉に売り浴びせれば、ダイナマイトどころのインパクトではすまない。
日本の金融機関も当然パニックに襲われ、狼狽売りせざるを得ないだろう。
そのとき国民は初めて自分たちの安全と思った貯金や生保、信託などが実は裏側で
国債に化けており、それが国家のルーズな財政を助長していたのだ、と気がつくのだ。
◆民主党の「度胸のよさ」には感心してしまう
金融も財政も、すべては物理学の法則に従う。将来から借金すれば、
誰かが将来払わなくてはならない。呼び方や経路を変えても「質量保存の法則」のように、
マジックはなく、収支が一致しなくてはいけない。借用証書を書いて時間軸をずらす
ことはできるが、負債が消えることはない。とくにデフレ下で人口減少とくれば、
より少ない人で過去の太った借金を返していかなくてはならない。
10年以上も前からこの問題の危険性を指摘し続けてきた私でさえも、ギリシャからの
連想が日本に飛ばないように「今は声を潜めなくてはいけない」という認識がある。
巨額の赤字国債が発行される今、「実はマイナス」と言い出した民主党の
「度胸のよさ」には、私は感心してしまう。本当は、赤字国債の発行余力などないのに、
これからどうしようと言うのだろうか。
■3■『 大前研一最新提言
~ もはや国債の発行余力を失った日本政府 』
※日経BPnet【時評コラム】に2010年3月10日発行に
大前研一が寄稿した記事を編集したものです。
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■≪もはや国債の発行余力を失った日本政府≫2010年3月10日
金融経済危機に対応するため、2009年は国だけでも新たに25兆円ほどの負債が
増加したとされ、政府の借金は増加する一方だ。もちろん地方政府、つまり
自治体の財政も厳しく、膨大な負債を抱え込んでいる。
◆政府部門の「正味資産」がマイナスに転落したらしい?
政府も地方自治体も国債や地方債に頼っているということは、将来の日本国民
から借金をしていることにほかならない。日本はその借金をずっと続けてきた。
しかし、それもいよいよ限界に来たようだ。政府部門の「正味資産」が2009年末
に“ついにマイナスに転落したらしい”。政府は財政健全化の道筋を早期に示す
必要がある。
この「正味資産」とは、国と地方をあわせた政府部門の資産から負債を差し引い
たものだ。具体的には、土地や株式などの資産から、国債や借入金などの負債を
引いたものである。これが2009年末に初めて“マイナスになったらしい”という
のだ。民間企業であれば、債務超過の状態である。
これにより政府関係者は、「国債や地方債の増発余地が乏しくなった」と言うが、
私から見れば「何を今さら」という感じだ。
◆「道路・土地等」の資産は実際にはお金の価値がゼロに等しい
2008年における政府部門のバランスシートによると、
資産部分は、「非金融資産」として「道路・土地等」が491.2兆円、「金融資産」
として「現金・有価証券等」が504.2兆円と書かれている。しかし、よく考えて
みてほしい。国が持っている道路や土地は現金化できるものではない。
資産の大部分は現金化できるはずがないことは誰が考えてもわかるだろう。
「道路・土地等」は実際にはお金の価値がゼロに等しい資産なのである。
要するに、国が持っているのは、流動性がきわめて低い資産だけである。
バランスシート上に書かれている金額ほどの価値はない。
「マイナスになるらしい」どころではない。
現実はマイナスもマイナス、大マイナスなのだ。
◆「実は正味資産はマイナス」と言われたら?
自民党政府は、「正味資産はプラス」としていたから、気前よく国債を発行していた。
しかし、「実は正味資産がマイナスでした」と国が認めた、となれば、国債を
引き受ける側が困る。国債を買っていた国民からすれば、「資産があるという
から買っていたのに」「本当は資産なんてありませんと今さら言われても」と
恨むのが普通だろう。
欧州連合(EU)ではドバイ危機からの連想でギリシャの経済危機が危惧されている。
その連想でPIIGSという言葉もささやかれている。ポルトガル、イタリア、
アイルランド、スペインにギリシャを加えた財政破綻予備軍の総称である。
しかし、国家財政の実態は日本のほうがこれらの国々よりはるかに悪い。
◆日本の公的債務に関する錯覚
学者の中には、ギリシャ国債は外国が買っており、対外債務であるから危機に
なるのであって、日本国債は国民および日本の金融機関が買っているので投売り
は起こらない、すなわち暴落の危険性は少ない、と解説する者もいる。まさに
「曲学阿世の徒」と呼ぶにふさわしい解釈である。
海外の投資家が日本の公的債務をまだ比較的安全と見ているのは錯覚に基づいている。
つまり、危なければ誰も買わないか、高利回りにしなくてはいけないだろう
(現にギリシャが先週行ったユーロ建て10年もの国債発行では6.25%もの利回り
としなくてはならなかった)。それが、日本の場合にはまだ1%台で発行し、
買い手がいるのだから安心なのだ、という錯覚である。
しかし、買い手は金融庁に睨まれた銀行とか生保、亀井大臣の大本営が経営する
郵貯や簡保、そして日銀や中小企業金融機関などである。もちろん国民は
そんなことは知らない。いざとなれば自分たちが預けたものは返ってくる、
と信じているが、どの金融機関も日本国債がコケた時には返済資金は当然ない。
もう一つの錯覚は、外国人が持っているわけではないから(ギリシャやアメリカ
などとは違う)、というものである。約6%(44兆円)は外国人が所有している。
彼らが一斉に売り浴びせれば、ダイナマイトどころのインパクトではすまない。
日本の金融機関も当然パニックに襲われ、狼狽売りせざるを得ないだろう。
そのとき国民は初めて自分たちの安全と思った貯金や生保、信託などが実は裏側で
国債に化けており、それが国家のルーズな財政を助長していたのだ、と気がつくのだ。
◆民主党の「度胸のよさ」には感心してしまう
金融も財政も、すべては物理学の法則に従う。将来から借金すれば、
誰かが将来払わなくてはならない。呼び方や経路を変えても「質量保存の法則」のように、
マジックはなく、収支が一致しなくてはいけない。借用証書を書いて時間軸をずらす
ことはできるが、負債が消えることはない。とくにデフレ下で人口減少とくれば、
より少ない人で過去の太った借金を返していかなくてはならない。
10年以上も前からこの問題の危険性を指摘し続けてきた私でさえも、ギリシャからの
連想が日本に飛ばないように「今は声を潜めなくてはいけない」という認識がある。
巨額の赤字国債が発行される今、「実はマイナス」と言い出した民主党の
「度胸のよさ」には、私は感心してしまう。本当は、赤字国債の発行余力などないのに、
これからどうしようと言うのだろうか。
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